2020年11月2日
秋の読書週間が始まっています。みなさんはどんな本を読まれてますで
しょうか。私のおすすめ本の第一位は、夏川草介さんの『始まりの木』
です。今や、夏川草介さんの新刊が出たら読まずにはいられないほどの
夏川ファンなのですが、今回の作品も期待に違わず、でした。
主人公は国立東々大学准教授で民俗学者の古屋神寺郎と大学院生の藤崎
千佳。今回は、この二人が日本各地に残された民俗学的に重要な場所を
巡っていくお話なのです。
しかしそう聞くと、民俗学に興味のない人にはおもしろくなさそう、と
思われるかも知れません。が、そうじゃないんです。
今の日本人が忘れてしまった信仰のあり方、心の持ちよう、その他諸々
この本を読んでいると、はっと気づかされることが多いのです。例えば、
第五話に登場する寺のご住職の次のような台詞。
「昔のこの国の人たちは、美しいということはどういうことか、正しい
とは何を意味するのか、そういうことをしっかりと知っていた。しかし
どんどん木を切って、どんどん心を削ってきた結果、そういうことがわ
からなくなってきちまったんだ。わからなくなっただけならまだいいが、
途方に暮れて、困り果てたあげく、西洋にならって、なんでもかんでも
金銭ずくで計算して、すっかりモノの価値をひっくりかえしてしまった」
そのことを反省させる日本各地の木々やお寺、そして神社。すべてまだ
現存するものだけに、この本はそういう場所の案内本にもなっています。
私もこの本を読んで、いくつかの場所を訪ねたく思いました。
あわせて巻末の参考文献を見ると、夏川氏がこの本の執筆にあたって、
相当勉強されたんだなぁと感心させられました。
福力