2019年09月19日
この夏、記録文学とも呼ばれる吉村昭氏の作品を集中して読みました。
吉村昭氏を知ったのは、彼が過去に書いた『三陸海岸大津波』が、あ
の東北大震災の後、増刷され販売されているという話をラジオで聞いた
のがきっかけでした。※(NHKラジオ深夜便 2019年7月9日 再放送)
吉村氏は明治29年、昭和8年、そして昭和35年と繰り返し三陸海岸に襲っ
た大津波の記録を丹念に調べ、同じような前兆がありながら、それが見逃
され、多くの犠牲者が繰り返し出ているという事実を、この本に綴ってい
ます。
今更ながら、こんな貴重な記録が過去に出版されていながら、それを生か
すことができなかったのだと考えると、その被害が原発事故を含め、あま
りにも大きいゆえに残念でなりません。
もう一冊の本は、『関東大震災』。あらかた知っていると思っていた関東
大震災についても、読んで見ると「知らなかった」事実が多かったことに
驚かされました。例えば、地震後、最も多くの犠牲者が出た本所被服廠跡
の災害の様子を、本書は次のように描いています。
「地震発生後、附近の人々は続々と被服廠跡に避難してきた。かれらは、
家財を周囲に立てて、その中に家族がゴザなどをしいて寄り集まっていた。
地震が正午前であったので、遅い昼食をとる者もあって広大な空地に避難
できた安堵の色がかれらの表情に濃く浮かんでいた。
そのうちに近くの町に火災が起こりはじめ黒煙もあがったが、不安を感
じる者はいなかった。避難者の数は時を追うにしたがって激増し、やがて
敷地内は人と家財で身動きできぬほどになった。
町々が徐々に焼きはらわれて、被服廠跡にも火が迫った。そして、火の
粉が一斉に空地にふりかかりはじめると、一瞬、家財や荷物が激しく燃え
出した。たちまち空地は、大混乱におちいった。人々は、炎を避けようと
走るが、ひしめき合う人の体にぶつかり合い、倒れた者の上に多くの人が
のしかかる。炎は、地を這うように走り、人々は衣服を焼かれ倒れた。そ
の中を右に左に人々は走ったが、焼死体を踏むと体がむれているためか、
腹部が破れ内臓がほとばしった。そのうちに、烈風が起り、それは大旋風
に化した。初めのうちは、トタンや布団が舞い上がっていたが、またたく
間に家財や人も巻き上げられはじめた。」(本文78ページ)
自然災害の記録は、未来に備える一助として、大きな価値があると思わさ
れました。
福力