2018年07月4日
前回、AIの限界についての著者の考えを要約しました。繰り返しますと、AIはさまざま
な段階を経て、センター試験で偏差値60弱というレベルまで発展してきた。しかし、AIが
数学の原理で動いている以上、そもそも原理的に無理なものは、この先、どれほど演算能
力が上がっても、AIに処理することはできない、したがってシンギュラリティなどは幻想
だと。
ただ、同時に、現時点のAIですら、これまでなら考えられなかったほど、人間の仕事を肩
代わりし始めている、と著者は指摘します。本書73ページに、オックスフォード大学の研
究チームが予測している、「10~20年後になくなる職業トップ25」が掲載されていますが、
大きな特徴はホワイトカラーによって担われてきた多くの職業が、AIによって今後代替され
る可能性が高いということなのです。その総数はざっと全雇用者の約半数。衝撃的な予測で
す。
では、同じ研究チームが予測している、「10~20年後まで残る職業トップ25」は?、と見
ると、その共通点は、「AIに不得意な分野と合致します。つまり、高度な読解力と常識、加
えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野」(171ページ)ということです。
そこでこの項の冒頭の問題点に、話は戻るわけです。では、そのような能力が、今の中学生
・高校生に養われているのだろうか、と。
全国25,000人の基礎的読解力を調べた著者は、このままいくと、最悪のシナリオ、つまり、
AIによって多くの仕事が人間からAIに代替され、新たなAIに対応できない分野での人材が
不足する一方で、そのような仕事は、「多くの人間にとっても苦手な仕事である可能性が
非常に高」く、「労働市場は深刻な人手不足に陥っているのに、巷間には失業者や最低賃金
の仕事を掛け持ちする人々が溢れている。結果、経済はAI恐慌の嵐に晒される」状況が、現
実のものとなると。
新しい大学共通試験に対応するためという短いスパンの目標ではなく、もっと広い視野を持っ
て「読解力」を考えていかねばならないと、本書を読んで考えさせられました。
※この本は図書室に寄贈しておきます。
福力