2018年01月11日
前回の続きです。レイ・カーツワイルの飛び抜けた、というかむしろトンデモ本に近い
発想が、なぜこれほど人口に膾炙し、世界中で真面目に議論されるのでしょうか。
それには理由があります。
駒沢大学の井上准教授は、以下のような理由を挙げておられます。
①カーツワイル自身が、すぐれた発明家であるということ。
※彼はこれまでにスキャナー、 OCR(ソフトウェア)、シンセサイザーなどを発明
している。
②カーツワイルはこれまでにも未来予測を的中させている。
※1990年頃に、多くの人々がチェスで、当面のところ、コンピュータは人間に勝てな
いと予測するなか、カーツワイルは98年には、それが実現すると予測。実際には、
97年にIBMのスーパーコンピュータ(ディープブルー)が、チェスの世界チャンピ
オンであるガルリ・カスパロフをやぶった。この他遺伝子解析でも、多くの人がま
だまだ実現しないとする中、数年で全解析が実現するという予想をし、彼の言った
予想が現実のものになった。
③カーツワイルの予測は、最先端の技術や膨大な研究論文を踏まえたものであるという
こと。 (※『人工知能と経済の未来』文藝春秋 43P~45P)
その結果彼の予測は、今、大真面目に世界で議論されているのです。そしてカーツワイル
自身、今後のAIの飛躍的発展による遺伝子工学、ナノテクノロジー等の発展で、今後15年
以内に人間は毎年1年以上寿命を延ばせるようになると断言し、「永遠に生きる気マンマン
で、1日に250錠ものサプリメントを飲んで健康を維持しつつ、不老不死が可能になる日を
待ちわびているそうです」。(同上書 47P)
この彼の確信の根底には、近い将来、人間の脳の神経ネットワーク構造すべてが、コンピ
ュータ上にアップロードできるという考えがあります。(※このことをマインドアップロ
ーディングとよぶ)
しかし、身体のない意識が、仮にコンピュータ上に移せたとして、それは「私」と呼べる
のでしょうか。こうなると、「問い」はにわかに哲学めいたものになってきます。
前回取りあげたNHKの番組では、著名な言語学者チョムスキー氏が、カーツワイルの考え
を根拠のない妄想だと切り捨てていました。
シンギュラリティは本当に起こるのか?また起こったとして、その未来は人類にとって幸
福といえるものになるのか。いずれにせよこの答えは、ここ10年くらいのうちには、その
片鱗が見えてくると言えそうです。
福力