2018年04月24日
著者が2008年から2010年までヴォランティアとして働いていた託児所は、「平均収入、
失業率、疾病率が全国最悪の水準1パーセントに該当する地区」にあったと、冒頭の文
にありました。
利用者は大まかに3つのタイプに分かれ、①アナキストあるいは激左と呼ばれる人々、
著者曰く、「高学歴で育ちのいい人も多く、自らの意志でミドルクラスから下層に降り
てきたヒッピー系インテリゲンチャ」。次に②公営住宅地のチャブ系。このチャブ(スペ
ペルはChavらしい)という言葉を、私はこの本で初めて知りましたが、差別的かつ侮蔑
的な言葉で、意味するところは、「公営住宅地にたむろっているガラの悪い若者たち」の
ことだといいます。もちろん若者だけを指すのではなく、その保護者も含み、ドラッグや
ナイフ犯罪等、英国の荒廃を象徴する言葉のようです。そして最後に③英国に来てまだ日
も浅い外国人。これらの3タイプの人々が子どもを預ける託児所で、約2年間、著者は働い
ていたことになります。
託児所の子どもたちは、家庭での暴力などの影響で、メンタル面で影響を受けている子が多
く、「凶暴な子や極端に他人を恐れる子など、他者とコミュニケーションができない子ども
たち」が顕著だったようです。
まだ年端もいかない子どもたち、その行動は突拍子もないことが多いことは言うまでもあり
ませんが、特に貧困が厳しい地区の託児所では、毎日がトラブルの連続です。
それでもまだ、2010年まで、つまり英国で緊縮財政が始まるまでは、これら3つの層が、託
児所の中で、お互いの子ども同士が関係をもつプロセスの中で、互いを良く知り、「アナキー
な奇跡」のような共生関係を保っていたということが、著者のエッセイから読み取れるのです。
しかし、緊縮財政が始まった2011年以降、情勢は一変し、「ソーシャルアパルトヘイト」と呼
ばれるような社会状況が始まることになります。それについては次回に。
福力